勝丸の巻

  例えば総合格闘技PRIDEの世界。日本格闘技界の救世主、桜庭和志が“日本人キラー”ヴァンダレイ・シウバにまさかの敗北を喫した。その後桜庭は万全の対策を整え、シウバとの再戦に挑むも再び敗北。そう、REVENGE失敗である。
   最近世間ではやたらREVENGEの文字が目に付くが、意外にも成功例は少ない。その風潮を気に留めることも無く、我々ラーメンブラザーズ(RB)は、桜も散り終えた4月の横浜、“聖地”ラーメン博物館へREVENGEを挑んだのである!
   時は午後2時30分。REVENGEを高らかにぶち上げつつも、ちょい飯時をズラそうなどと姑息な考えでこの時間にやってきたRBであったが、ラー博入場口に並ぶ長蛇の列を前に、その考えが伊勢の赤福餅より甘かったことを思い知らされたのである。
   行列は本意ではないRB、潔くみなとみらいで時間を潰し、再びやって来たのは何飯かもう訳のわからない午後4時30分。さすがに入場口の行列は解消されていた。
   「何をもってREVENGEとや?」と聞かれれば、「三軒斬り!」と即座に答え、前回二軒でKO負けした雪辱を誓い、意気込んでラー博内に乗り込んだRB、まず最初に挑むは醤油ラーメンと決めていた。なぜなら最初にあっさり味食べた方が後々いっぱい食べれるかなーなんていう前回イキナリこってり味を食べての失敗を、鼻の頭にある超高校級の電子頭脳で学習していたからである。
   とにかく腹の減っているRBが飛びこんだのは、取りあえず行列ができてなかった東京醤油ラーメン「勝丸」。店内はこざっぱりしており、店員もなかなか威勢が良い。威勢の良い店員の前だとRBもなぜか対抗しようとするようだ。理由無き反抗である。(違うか?)
  例のごとく注文はミニラーメン。威勢の良さを存分に発揮できない注文である。ラーメンを待つ間沈黙のRB、店内に客がほとんどおらず、東京醤油ラーメンということで得意の博多弁もなりを潜めた。
   ともかくラーメンは運ばれてきた。見たところさほど油が浮いている訳でもなく、さっぱりしてそうな感じである。お互いに箸を取ってあげるなど、男同士で気色の悪い連携を取ったRBのお待ちかねのラーメン、まずはスープを一口すする。うーん、オーソドックスな醤油味。魚系のダシの味が立っている。後味に苦味があるなあ。麺も中くらいの太さで、これといって特徴は無いような感じかなあ。正味な話し、良くわかんないのである。これって美味いのか?いや、まずくはないし、美味いといえば美味い。なんだろう、後味の苦さがイマイチ気に入らないが、それもまたアリなのかなあ。なんちゅうか、例えればタモリのような味なのである。別にいてもいなくてもいいし、面白いわけでもないが、なぜかニーズがあり、とりあえず進行の妨げにならず万人受けするような、そんな味。あくまでRBとしてはであるが。毎日食べても飽きないとでも言うのか?ま、毎日食べるヤツもどうかと思うが(と言いつつもRBの昼飯は毎日カップラーメンと白飯である)。
  とにかくラーメンを食べ終え、満面の笑みを浮かべて店を後にするRB、その笑顔の訳はラーメンに満足したのではなく、これならまだまだ食べれそうという自信から来るものであった。「全然イケル!」と連呼し、ラーメンの味がどうのなどまるで忘れているRB、単にどれだけ食えるかばかりに心を奪われていた。“いっぱい食える奴が男前”という、三好鉄生か小学生並の考えを露呈し、無邪気にはしゃぐRB、しかし悲しいかな食べたのは一杯のミニラーメンだけである。

勝丸…★★
 
  支那そばやの巻

  胃の許容量はまだ充分。それだけで鬼の首を捕ったように勢いづくRBが選ぶ次なるターゲットは・・・。普通なら醤油の次は味噌か豚骨か、はたまた塩か。しかしそこは一般人とは一線を画すRB、二回戦の相手に選んだのはまたもや醤油!漫才用語で言うところの“天丼”をカマしたのである。別に誰の笑いも取れないが。
  次なるターゲット・・・それはある意味RBがわざわざ二時間もかけて横浜までやってくる最大の理由になっているあの有名店。そう、カリスマラーメン店、鬼の佐野実の店、「支那そばや」である!
  ・・・などとご大層に言ってはみたが、実はRBは行ったことがなく、前回も行きたかったがお腹が一杯で行けなかったのである。
  店の前は長蛇の列。完全に飯時をハズしているにもかかわらず、その人気の高さはさすがであり、MILK&WATERの観客動員数とどちらが上か図りかねるほどである。などと見栄を張りつつ行列の一番最後に並ぶRB、その胸中はなぜか「佐野のヤロー見とけ!この前の借りは返すぜ!」とか「今、中国のことを支那なんて言っちゃいけないんだぞ!」などと完全なる言い掛かり&イチャモンで満ちていた。
  毎度毎度行列は本意ではないと言いつつ、いつも大人しく並んでいるRBであるが、決して無駄に並んでいるわけではない。もちろんお菓子を食べたりジュースを飲んだりとかそういうことでもない。曲作りである。腐ってもミュージシャンのサンダース884。いついかなる時でも音楽のことを忘れたことはない!(これ、あくまで推測ね!)
  皮手袋に小汚い中途半端茶髪の長髪に、黒っぽい服装で小太り、それにメガネ。皆さんもお気づきのように完全なるオタク。しかもデスメタルとか大好きそうな。(バンダナがあればパーフェクトだったね!)そんなコダワリ派の彼も迷わず並んでしまう魅力タップリの支那そばやとはどんなものだろう?我々はさりげない人間ウォッチングも織り交ぜながら一時間(!)足らずの待ち時間をようやく消化した。
  店内に入るとテーブルの上に麺についての説明書きがある。何でもイタリア産のデュラムセモリナ粉と従来の国産の小麦粉を配合して麺を作っているらしい。当然パスタのような食感が予想される。我々はそんなことを考えつつも、時折厨房をのぞきこみ、「あ、あれ佐野じゃない?」、「イヤ、佐野はもっとハゲてるよ!」とかまるで骨の無いバカ丸出しのミーハーぶりをいかんなく発揮した。(結局佐野は厨房にいなかったようだ、これがまたバカっぽい)。
  いよいよお待ちかねのラーメン(ミニ)の登場である。見た目も琥珀色で昔ながらのラーメンって感じ。テレビであれだけ大言を吐いている男のラーメンだ、マズかったら容赦せんぞ!と、最初からかなりのハンデを背負った佐野のラーメン、果たしてその味は・・・?
  まずはスープ。ここもやはり魚系のダシの味が強い。とてもあっさりスッキリしたスープ。後味に酸味が残る。どうなん?この酸味はアリなん?と感じたが、ま、アリなんでしょう。そして例の麺を啜る。なるほど、この直麺は妙に白くて、やはりパスタのようなモチモチ感がある。ちょっとラーメンっぽくないかなあ。全体的に上品な味に仕上がっているとでも言おうか。ただ、勝丸でも感じたように、率直に言ってよくわかんないのである。これは完全なる個人的な好みの問題で、RB的に醤油ラーメンはあんまり好きじゃないのでは?と感じてしまった。だからよくわかんないというのが本音だ。
  ともかくラーメンを食べ終えたRB、その顔にはまたも薄ら笑いが浮かんでいる。そう、ここでもラーメンに満足した訳ではなく、まだ食べれるという確信に対する満足感からである。もう完全に主旨は変わってきているが、この際それはどうでも良かった。ただ、満足げに食後のガムを噛むサンダース884の表情には、決して住民税を滞納し、電話加入権を差し押さえされている男とは思えないダンディズムが溢れていた。(と言ってもまだミニラーメン2杯)

支那そばや…★★★
  
  純連の巻

  「まだ食えるよな?」とお互いに探り合うRB、多少の強がりはあるが、確かに多少胃袋に余力はある。最初にあっさり味ばかり食べるという作戦が見事にハマった。ここで次もまた醤油ラーメンを食べれば多少笑いも取れそうなものだが、やはりそこはRB、この詰めの甘ささえなければとうにメジャーデビューしていたはずである。
  今度はやっぱこってり味が食べたいな、と向かった先は函館ラーメン「純連(すみれ)」。かなりこってりした味噌ラーメンらしい。店の前には支那そばやを上回る長い行列が!どうやらラー博内でも1,2を争う人気店のようだ。人間ウォッチングにもさすがに飽き飽きのRBではあるが、先程支那そばやの前で見かけた、デスメタル好きのオタク(勝手に断定)をまたも見かけるや、彼の滑稽味を肴にひとしきり勝手なことをしゃべり倒し、あまつさえ彼のイングヴェイばりのギタープレイにまで論述する想像力の豊かさを存分に発揮した。
  またまた小一時間の待ち時間を消化し、いよいよ食券売り場の前に来た。塩とか醤油も選べるようだが、やはりここは基本の味噌でしょう。もちろんミニで。店内には先程までの醤油ラーメンとは違い、いかにもこってりしてそうな、ニンニクやラード系の香ばしい香りが漂っている。腹は膨れているが、やはり食欲を刺激される。
  テーブルにつくと、ちょっとヌルヌルした感じ。こってり系のラーメン屋によくある現象だ。遂に3杯目のラーメンを食べる時が来た、と感慨にふけりながらラーメンを待つRB。はたしてラーメンはやってきた。
  一見してわかるのはスープを覆う分厚いラードの層。その層の中にレンゲを差し入れ、スープをすくうと、そのレンゲから湯気が立ち上る。そう、ラードに覆われたスープはまるで熱の逃げ場が無く、めちゃくちゃ熱々なのである。注意深くスープを口に運ぶ。熱い!予想はしてたが、舌の焼けそうな熱さだ。肝心の味はというとニンニクが効いており、トロッとした動物系のコクのある超濃厚なスープ。これはなかなかウマイ。ただいかんせんラードが多過ぎて油っこ過ぎるかな。続いて麺を食べる。これは太めのちぢれ麺でRB好み。濃厚なスープによくからみ食べ応えがある。食べ進むうちにこれって味噌味?という疑問が出てきた。ラード味が強過ぎて、なんだか濃厚で油っこいスープとしかわからくなっている。一見したところ、塩だろうが醤油だろうが総じてスープには分厚いラード層があり、どれもほぼ同じ味&こってり感だということは想像できる。それはそれで問題は無いが。
  横目で隣の家族連れを見ると、白髪の老婆とその孫が小皿にラーメンを取り分けて、汗をかきかき懸命にその脂ギッシュなラーメンと格闘している。そのババアは塩ラーメンを食べているらしく、孫の母親に向かって、「塩だから結構あっさりしてるわ。」などと油まみれの口をヌラヌラさせながら必死に言っていたが、その強がりがなぜか老人の哀愁を強調させ、RB的には妙におかしくて切ない気分になったのである。(自分らを見るようで?)
  かなりの満足感と満腹感とともにスープを飲み終えると、RBはやや苦しげな表情で店を後にした。やはり最後に来てのこってりラーメンは胃にコタエル。しかしながら前回とはまるでその食後感は違う。完全なるKOにて幕を閉じた前回、その足取りはおぼつかず、脂汗をかき、苦痛の表情でラー博を後にしたRBの様は、せっかく遊園地に遊びに連れて来てあげた子供がなぜか途中で機嫌を悪くしてグズり、親に叱られて更に泣きじゃくるという、「なんで楽しいとこ連れて来てんのにそんなんやねん!」的な理不尽さに満ちていたが、今回のRBは比較的胃袋の余裕もあり、最後のラーメンもなかなか美味かったせいか充実感もうかがえた。
  「REVENGE達成!」。RBの頭の中にはその言葉が駆け巡る。と同時にもうラー博に来るべきラーメン屋は無いな、という事実も悟っていた。しかもすぐ調子づくRBは、「こんなんなら環七のラーメン屋巡りした方が良かったな!」などと前回のKO負けのことなど昨今の政治家ヨロシク全く記憶に無かったのである。
  こんだけ食べれば「もうラーメンは当分いいや!」と思うところであり、実際筆者もそう思っていたが、サンダース884の翌日の昼食はまたもカップラーメンと白飯であり、しかも翌日送られてきたメールには「純連のラーメン食った後ゲップしたら、あ、ウマイ!と思った」などという下世話な話が書いてあったことも付け加えておきたい。

純連…★★★★